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2012年8月20日 (月)

ルベル『四大元素』

Les_elemens

 マルク・ミンコフスキ指揮ルーブル宮音楽隊、ジャン・フェリ・ルベル作曲、舞踏組曲『四大元素』のCD(ERATO 2292-45974-2)について。

 J.F.ルベルという、この耳慣れない名前の18世紀フランスの作曲家は、組曲『四大元素』(Les Elemens)一曲で、現在では有名になっています。
 それは、この曲の冒頭に鳴り響く、すさまじい不協和音の奏でる衝撃的な印象によるものでしょう。バロック時代の組曲とは思えない、破壊的とすら言える音の洪水に、おそらく何の予備知識も持たずにこの冒頭の曲を耳にした人は、現代音楽の作曲家の作品と聴き間違うこともあるかも知れません。もちろん、バロック時代にも不協和音を用いた作品や、半音階進行を織り交ぜた曲はあるにはあるのですが、その聴覚的なインパクトという点では、なにをも凌ぐ迫力を持っています。
 この冒頭の曲は「混沌」(Le Chaos)と名付けられていて、古代ギリシアで宇宙を構成すると考えられていた土、水、火、空気の四大元素が、未だその分化した姿を見せる前の渾然一体とした様子を描写したものですが、その内部において、まさにこれから宇宙を生成し始めようという、すさまじいエネルギーを秘めた、いわば現代流に言うならビッグバンの様相を音に託した作品と言ってよいかも知れません。
 しかし、ルベルの名を現代に知らしめた破格の音の洪水はこの第一楽章だけで、あとは雅やかな宮廷舞曲風の音楽が続きます。ルベルは、ルイ14世の治世にあってヴェルサイユの音楽監督J.B.リュリに師事し、自身も宮廷作曲家の称号を持つ、生粋のフランス古典音楽の大家でしたから、それも当然のことでしょう。カオスに続く四大元素を構成する楽曲は、熱狂的な大爆発から物質が徐々に冷えて宇宙の秩序や自然をかたち作っていく、その様を優雅に活写しているように思えます。古代ギリシアの思想では、万物の根源であるこの四種の元素を結びつけるものが”愛”であるとされました。ルベルの『四大元素』もまた、その終曲から二番目に、可憐な「愛のためのエール(Air pour L'Amor)」を配し、祝祭的なカプリースが宇宙の完成を歓喜を以て迎え曲を終えます。
 さて、このCDを演奏している、マルク・ミンコフスキとルーブル宮音楽隊は、情感的で色彩感ゆたかな音楽づくりを特色としていますが、それは後半の、フランスらしい舞曲にその良さがとくに現れていると言えるでしょう。
 冒頭のカオスの楽章は、その点ではやや優しげでもの足りなさを感じる面もありますが、それに続く、いかにもヴェルサイユの音楽らしい雅やかな楽章とは却ってうまく釣り合いがとれていて、音楽的には微妙な統一感が保たれているように感じます。
 ところで、このCDには、『四大元素』の他に、『舞踏の諸相』と、師であるリュリへの追悼曲である『リュリ氏のトンボー』の二曲が収められています。いずれも素晴らしい音楽とその演奏です。

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