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2012年8月25日 (土)

アルビノーニ『協奏曲集作品9』

Albinoni

 クリストファー・ホグウッド指揮、アカデミー・オヴ・エンシェントミュージック アルビノーニ『協奏曲集 作品9』DECCA 458 192-2 CDです。

 「アルビノーニのアダージョ」で知られる作曲家、トマゾ・ジョヴァンニ・アルビノーニは、1671年、イタリアの水の都、ヴェネチアに生まれました。バロック時代の作曲家は、たいていが宮廷や教会に伺候して、自分たちの雇い主である王侯貴族たちの求めに応じ、あるいは教会行事のための音楽を作曲するのが一般的でした。つまり、程度の差はあれ、音楽は自らと家族の生活の糧を得るための手段であり、経済活動でもあったのです。しかし、成功した裕福な紙商人の家庭に生まれたアルビノーニは、経済的な桎梏から解き放たれており、作曲家としてそうした被用者の立場に身を置くことはありませんでした。自らを「ディレッタント」と称し、自由な立場で、自分の好きな音楽を書き続けることが出来たのです。作曲家としては、まことに幸運であったと言えるでしょう。
 そのためでしょうか、アルビノーニの音楽は、深みというものはないにせよ、屈託のない育ちの良さを感じさせる、素直な美しさに満ちています。長調の調べは、明るく軽快で、うっとりするような抒情にあふれ、短調の調べはどこまでもメランコリックで、感傷的です。綺麗なものを見れば臆することなく賞賛し、悲しみに遭えば嘆きに心を痛める。私たちが大人の作法を身につけてゆくなかでいつしか忘れ去ってきた、そんな純粋な天真爛漫さに出会ったかのような感動と懐かしさが、アルビノーニの音楽にはあるのです。こうした表現は、様式美を追求したバロック音楽の、ひとつの典型とさえ言い得るような気がします。
 さて、アルビノーニは様々なジャンルの曲を作っていますが、こうした彼の音楽の特徴をもっとも良く現しているのが、協奏曲であると言えるでしょう。アルビノーニが出版した協奏曲集には、作品5、作品7、作品9、そして作品10があり、それぞれが12曲から成っています。なかでも音楽的に充実しているのが、この作品9の協奏曲集です。この曲集は、1722年に出版されており、バイエルン選帝候マクシミリアン2世に献呈されました。弦楽合奏と、ヴァイオリンまたはオーボエのための協奏曲で構成されており、オーボエ協奏曲は1本のオーボエのためのものと、2本のオーボエのためのものがあります。名作だけに、昔からさまざまな演奏家が取り上げてきましたが、このホグウッドとアカデミー・オヴ・エンシェントミュージックによる演奏は、ジャケット写真のクレジットにも見えるように、古楽器オケによるものとしては世界初録音でした。よくドライブされた古楽器ならではの、透明感あふれる響きと、足並みの軽やかな音の運びが美しく、ともするとはしゃぎ過ぎ、あるいはウェットに流れがちなアルビノーニの音楽に、上品な抑制のきいた輝きを与えています。通奏低音にリュートやバロックギターを採用しているのも古楽器演奏ならではの成果で、ヴァイオリン族の音の狭間から顔を覗かせるそれらの楽器の繊細な音色は、古楽器による演奏ならではの魅力でしょう。
 アルビノーニは、自由人として音楽活動をおこなっていたため、記録に乏しく、詳しい伝記が書かれていません。殆どを故国イタリアで過ごし、生まれたのと同じヴェネチアで、1751年に亡くなったとされています。したがって、こうした美しい音楽を、どのような生活と心象のなかで生み出し続けたのかは謎ですが、彼の音楽が私たちにもたらしてくれたのと同じ幸福のなかで、その生涯を送ったに違いないということを祈らずにはいられません。
 ところで、冒頭にふれた「アルビノーニのアダージョ」は、映画のBGMになったり、ポピュラーミュージックのアーティストが取り上げたりと、この作曲家の名前を多くの人に知らしめるきっかけとなった曲です。ところが、この曲はじつは当のアルビノーニとは何の関係もない、後世の人の贋作であることが判明しています。アルビノーニの旋律がいかに美しく、人々の心を捉えて離さないかということを印象づけるエピソードではないでしょうか。

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