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2012年12月31日 (月)

カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ『フルート協奏曲集』

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カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ『フルート協奏曲集』
 
 
トン・コープマン指揮、アムステルダム・バロック管弦楽団
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 カール・フィリップ・エマヌエル・バッハは、あの大バッハが先妻マリア・バルバラとの間にもうけた第二子です。バッハの息子たちは、その多くが音楽家として成長していますが、なかでもカール・フィリップ・エマヌエルはひときわ豊かな才能に恵まれていました。ベルリンに赴き、啓蒙専制君主として歴史に名を残したフリードリヒ2世(フリードリヒ大王)に仕え、さらには大作曲家テレマンの後任としてハンブルク市の音楽監督に就任しています。こうした経歴からみても、彼がいかに成功した音楽家であったかが納得されるでしょう。
 このCDに収められている「フルート協奏曲」は、彼がベルリンにいた頃に作曲されたもので、フルートの名手でもあったフリードリヒ2世のために書かれたものと思われます。
 
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画家メンツェルの描いた「サン・スーシ宮のフルート演奏」という絵画がありますが、音楽にも造詣の深かったフリードリヒ2世の宮廷の様子を生き生きと描き出しています。画面の中央でフルートを演奏しているのが、フリードリヒ2世その人。右側で、背中をむけてチェンバロの前に座っているのが、エマヌエル・バッハだと言われています。さらには、画面の左奥には、フリードリヒ2世に近代合理精神を講義したヴォルテールも描かれています。
 さて、エマヌエルバッハは、協奏曲のみならず、シンフォニアやクラヴィーアのための独奏曲など、さまざまな楽曲を書いていますが、いずれも、彼特有のファンタジックな曲相、ダイナミックな面白さをいかんなく発揮した曲となっています。疾風怒濤を思わせる旋律の変化など、彼の音楽は「多感様式」と呼ばれ、ハイドンやベートーヴェンに影響を与えたとされていますが、それも頷けるところです。
 ところが、父親のバッハは、このよく出来た息子のことをあまり評価していなかったらしく、「あいつは時流に乗っていい気になっている。そのうち行き詰まるだろう」という意味のことを語ったと伝えられています。音楽評論家であったヨハン・アドルフ・シャイベが自著『批評的音楽家』のなかで、父バッハの音楽を時代遅れと酷評したのは、1737年のことでした。息子のエマヌエル・バッハは既に作曲活動を始めており、その3年後には、ベルリンの宮廷でフリードリヒ大王の音楽教師となり、時代の寵児への階段を駆け登り始めます。さきに書いたように、テレマンにもその才能を買われた彼は、当時、父バッハよりもはるかに人気のある売れっ子作曲家となっていました。
 対位法を中心とした父バッハの音楽は、既に古風なものとして流行から外れていましたが、しかし父バッハは、頑ななまでに自らの音楽を追及するかのように、時代が求める作風とはまさに対極を行く、「フーガの技法」や「音楽の捧げもの」等、純粋な音楽的世界の探求に突き進んでいったのです。
 親と子の世代の確執というのは、どの世界にも、いつの時代にもあったということでしょうか。
 さて、手兵のアムステルダム・バロック管弦楽団を指揮するトン・コープマンは、オランダ出身のチェンバロ・オルガン奏者で、レオンハルトに師事した、いわば古楽演奏の第2世代の代表格です。このCDでは、通奏低音チェンバロを演奏しながらの「弾き振り」を披露していますが、そのチェンバロの雄弁な語りがこの演奏の何よりの醍醐味といってよく、エマヌエル・バッハのギャラントな曲想との相性は抜群で、その自由闊達さはまるでジャズ演奏を彷彿とさせるほどです。
 いっぽう、ソリストであるコンラート・ヒュンテラーのフルート演奏は、それに対し、華やかでいながら折り目正しく、コープマンの無邪気とも思える奔放さと好対照をなしていて、演奏全体のまとまりをうまい具合に作り出しています。
 このあたりの妙を聴くのも、このCDの楽しみと言えるかも知れません。
 
WEBサイト「文芸工房ARS POETICA」はこちら

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