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2017年10月15日 (日)

クラウディオ・モンテヴェルディ『ポッペアの戴冠』

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クラウディオ・モンテヴェルディ『ポッペアの戴冠』
ルネ・ヤーコプス指揮コンチェルト・ヴォカーレ
harmoniamundi FRANCE HML5901330 (旧版901330.32)

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クラウディオ・モンテヴェルディ『ポッペアの戴冠』
ニコラウス・アーノンクール指揮チューリヒ歌劇場モンテヴェルディ・アンサンブル
Deutsche Grammophon UCBG1220/1

 モンテヴェルディは、厳格な対位法にもとづくルネサンス・ポリフォニー様式の宗教曲やマドリガーレの作曲家として登場し、後にその様式を徐々に変化させて、より自由な構成による初期バロック音楽の大家として音楽史に名を残しました。
 『ポッペアの戴冠』は、そのモンテヴェルディ最晩年の手になるオペラであり、1642年に作曲され、ヴェネチアにおいて初演されました。今日でも、初期バロックオペラの最大傑作としての名声が確立されている作品です。
 一般的にバロックオペラというと、後期バロック時代の、レチタティーヴォ(語り)とアリア(歌)が明確に区別された様式を想起します。しかし、モンテヴェルディのオペラは、「語り」と「歌」が明瞭に区分されているわけではありません。確かに、語りもあれば歌もある。しかし、その両者の要素が渾然一体となった、「歌うように語り」「語るように歌う」フレーズが、途切れることなく、ひと続きの河の流れのように展開し、大きな音楽世界、物語世界の形作っているところに、モンテヴェルディ(あるいは初期バロック)のオペラ作品の不思議な魅力が生まれているといってもいいでしょう。
 こうした初期バロック音楽の作法は、レチタール・カンタンドと呼ばれ、ルネサンス・ポリフォニー様式の厳格な対位法の世界から抜け出て、より自由な音楽表現を求めたところに花開きました。モンテヴェルディのオペラ作品もその系譜に位置づけることができます。モンテヴェルディはそのレチタール・カンタンド様式をより洗練させ、その後のバロックオペラの隆盛の基礎を創り上げる役割を果たしました。オペラはその後、「語り」が物語の進行を、「歌」が登場人物の内面を表出するという役割分担をおこなうことで、やがてヘンデルやハッセのような、レチタティーヴォ(語り)とアリア(歌)に整理された様式へと変化していきました。

 さて、このオペラには、ナポリ稿とヴェネチア稿という二種類の写譜が残されていますが、いずれも歌詞と低音部だけしか記譜されておらず、そのため、演奏者は楽器やオーケストレーションを独自に工夫しなければなりません。いわば、演奏者の独自性がそのまま顕現される作品という面白さがあります。
 ヤーコプスのCDは、1990年、モンペリエ歌劇場でのライヴ録音版です。私個人としては、このオペラのメディアタイトルのなかでも一番に挙げたい演奏です。コンティヌオを中心とした古楽器の響きの美しさもさることながら、的確なテンポ設定と、差し挟まれる管弦楽のシンフォニアやリトルネッロの流暢さ、楽器と声のバランス、語りと歌の一連の流れが素晴らしい音楽的まとまりを作っています。器楽の使用は比較的控えめなのですが、それが劇的な物語空間の緊張感を作り出しているのです。シリアスな場面とコミカルな場面の転換も嫌味や違和感なく楽しめます。タイトルロールを歌うボルスをはじめとする歌手たちも文句なく、おそらくヤーコプスの録音のなかでも会心作といえるものではないでしょうか。
 いっぽう、ポネル演出、アーノンクールによるDVDは、1978年に製作されたオペラ映画です。比較的古い映像なので粗さも目立ちますが、ライヴ映像ではない分、計画的に創り込まれた映像の面白さを味わうことが出来ます。例えば、序章の運命、徳、愛の寓意的登場人物が、随時物語の進行に関わるところや、登場人物たちの仕草、表情を切り取ったカットは物語の進行の理解を助けてくれます。
 音楽的には、ネローネをテノールのエリック・タピーに配しているのが特徴です。役との整合性という点では納得のいく采配でしょう。あと、フッテンロッハーやアライサなどのビッグネームがチョイ役で出ているのには驚きました。器楽の陣容は、映像を見る限りでは古楽器と現代楽器が混じっており、演奏に関してはやや分厚いオーケストレーションで処理しているのは時代を感じさせます。
 ヤーコプス盤は、音楽的なまとまりと美しさにおいて完璧を感じさせる演奏です。録音後27年という時間の経過をまったく感じさせるところがありません。モンテヴェルディ・オペラの演奏史において、ひとつの金字塔を打ち立てていると言っても過言ではないと思います。
 アーノンクール盤のほうは、「ポッペアの戴冠」というオペラ黎明期の作品を、音楽史の博物館の展示室の中から、現代の聴衆の前にいきいきと再現して見せてくれた、記念碑的な演奏であると言うことが出来るかも知れません。 

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