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2019年2月17日 (日)

リュリ『ペルセ』1770年ヴェルサイユ版

945
 
ジャン・バティスト・リュリ『ペルセ』
1770年ヴェルサイユ版
エルヴェ・ニケ指揮ル・コンセール・スピリトゥエル
ALPHA 967
 
 ジャン・バティスト・リュリのオペラ『ペルセ』は、1682年に作曲されました。その翌年には、寵愛をほしいままにしていたルイ14世の秘書官にも任命されるなど、音楽家としても宮廷人としても、まさに絶頂を極めつつあった時期の作品です。
 オペラ作曲家としての前半、リュリはモリエールとコンビを組んで、コメディ・バレ(舞踏喜劇)で成功を博しました。しかし、興行収入の分配をめぐってモリエールを袂を分かって以後、リュリのスタイルを決定づけることになる、トラジェディ・リリク(叙情悲劇)の作風を確立したのです。
 舞踏喜劇は、音楽が俳優の台詞と演技によって中断される、演劇的要素の比較的濃い様式ですが、叙情悲劇は歌手が主役となり、全体を通じて音楽が物語を牽引する、音楽的により充実した形式を持っています。
 『ペルセ』はその叙情悲劇の代表作のひとつです。
 リュリはコルネイユなどの悲劇にも曲を付けていますが、叙情悲劇の台本のほとんどを書いたのは劇作家フィリップ・キノーでした。『ペルセ』もまた、キノーの手になるもので、リュリの成功は国王ルイ14世による支援に頼むところが大きかったのは言うまでもありませんが、秀逸な台本を提供した劇作家キノーのお蔭によるところも少なくはありません。
 物語は、ギリシャ・ローマ神話に登場する、英雄ペルセの活躍を縦糸に、ペルセの恋人アンドロメード、その許婚フィネ、ペルセのもと婚約者であったメロープらの四角関係、そのもつれる愛憎を横糸に展開します。ペルセによるゴルゴン、メデューサの退治譚、女神ジュノーの怒りによって海獣の餌食にされかかったアンドロメードの救出譚など、誰もが知る神話の世界が、濃密な物語に凝縮されてひとつの世界を形成しています。
 さて、今回取り上げたのは、この『ペルセ』の異色のバージョン、1770年ヴェルサイユ版です。
 作曲されて88年後の再演ですが、その契機となったのは、時のドーファン(王太子)の結婚でした。『ペルセ』のヴェルサイユ版は、この結婚のための機会オペラとして再演されたのです。このドーファンは、4年後の1774年、ブルボン朝第5代国王ルイ16世として即位することになりますので、この『ペルセ』を耳にした花嫁は、マリア・テレジアの娘、マリー・アントワネットということになります。
 まさに「ベルばら」の渦中に流れていた音楽、ということになるでしょうか。
 ヴェルサイユ版は、台本は1人の作家ニコラ・ルネ・ジョリボーによって、また音楽は同時代の3人の作曲家、アントワーン・ドーヴェルニュ、フランソワ・ルベルそしてベルナール・ド・ビュリによって、それぞれ改校訂されています。
 もちろん、全編の核になるのはリュリの音楽であるのは言うまでもありません。しかし、序曲や舞曲などの器楽曲の一部、そして物語の山場を形成する場面の音楽などは、これらの作曲家が差し替えています。クリスティアン・バッハばりの序曲に始まり、リュリの雅やかな音楽の流れのなかから、突然、当世風の歌やサンフォニーが飛び出てきます。若干違和感を伴う演出と感じる部分もありますが、聴きようによってはスリリングでもあります。とくに第4幕で、フィネがその恋敵ペルセと戦う場面のくだりは圧巻です。
 何より、当時、音楽は一種の消費物でしたから、このような形でではあれ、リュリの音楽が残されたというのは、彼の名声がいかばかりのものであったかということを物語っているでしょう。
 台本ですが、キノーによるオリジナルがプロローグに続く5幕ものであったのに対して、ジョリボーはルイ14世へのお追従を歌ったプロローグをカットし、さらに本編を4幕ものに改編しました。物語じたいはほとんど変わりません。ただ、フィネがペルセの命を狙っているとメロープが伝えに来る場面がカットされ、また、キノーの原作では、フィネとその手下たちは、ペルセが討ち取ったデューサの首を見せられて石に化してしまうのに対し、ジョリボーの改作では、武器を奪われ、窮地に立ったフィネは己の短剣を使って自害し、手下たちが四散して戦いが終わります。
 キノーのテキストに比較すると短めになっているとともに、神話的世界の物語ではなく、より人間的なストーリーに改編されている印象を受けます。
 
 演奏はエルヴェ・ニケ指揮、ル・コンセール・スピリトゥエルによるものです。
 2枚組CDのクレジットを確認すると、26本のヴァイオリン、8本のヴィオラ、16本のチェロ等、かなり大がかりなオーケストラ構成になっていることがわかります。また、合唱も総勢95名という規模であることに驚かされます。このあたりは、このヴェルサイユ版が、結婚式のための華やかな祝典音楽劇として再構成されたということを如実に物語っていると言えるでしょう。
 音楽的な統一性という点で聴けば、なかなか突っ込みどころのある版ではありますが、これはこれで話題性のある録音であることに間違いはないと思います。
 
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