« リュリ『ペルセ』1770年ヴェルサイユ版 | トップページ | モンテヴェルディ『ウリッセの帰還』 »

2019年4月29日 (月)

ヘンデル『シッラ』

938

ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル『シッラ』HWV10
ファビオ・ビオンディ指揮エウローパ・ガランテ
GLOSSA GCD923408

 ヘンデルのオペラ『シッラ』が作曲されたのは、1713年。傑作『リナルド』でロンドンの聴衆を虜にしてから、わずか2年後のことです。『リナルド』の成功をきっかけとして、ロンドンはイタリア・オペラ流行の渦中に呑みこまれていくわけですが、この『シッラ』はそのような状況のなかで書かれました。
 しかし、『シッラ』はこの時期のヘンデルオペラにしては非常に小ぶりな作品となっています。アリアや二重唱の数こそ、全体で24曲と遜色ありませんが、概ね短めにまとめられており、楽曲全体の演奏時間は約2時間ほどです。ほぼ同じ時期には、ヘンデルオペラ唯一の5幕ものの大作『テーセオ』、『ゴールのアマディージ』などの堂々たる作品が作曲されていることを考えると、これはちょっと不思議にも思えます。
 定説では、『シッラ』は2度目の渡英直後の1712年から1716年まで、ヘンデルが滞在していた第3代バーリントン伯爵リチャード・ボイルの館おける私的上演のために作曲されたということになっているので、『シッラ』の小規模であることにもある程度納得がいくかも知れません。但し、クリストファー・ホグウッドは、『シッラ』の上演を1713年6月2日と特定しているものの、バーリントン伯爵邸での上演であった証拠は何も残されていない、としています。それでも、リチャード・ボイルは建築や芸術に造詣が深く、またヘンデルの音楽の良き理解者でもありましたから、ヘンデルがこの館で『シッラ』を上演したと推測することに大きな不自然はないとも言えるでしょう。
 小ぶりなオペラではありますが、音楽的にはとても充実しています。アリアはどれも美しく、至るところヘンデル節が満載です。ダカーポ・アリアが中心になるのは勿論のことですが、アリアが簡潔であること。そして、イタリア語を解しなかったであろう聴衆のために、レチタティーヴォの多くは会話を紡いでいくスタイルで全体的にも短めで、テンポよく進みます。そうした意味で言えば、目立たぬ作品ではあるものの、ヘンデルオペラの入門用として最適な作品であるということも出来るかも知れません。
 台本はジャコモ・ロッシ。ローマの執政官シッラは、政敵マリオに対する自身の戦勝により高慢に拍車がかかり、護民官レピードの妻フラーヴィアに手を出そうとしたり、マリオを尊敬する騎士クラウディオの恋人チェーリアを手籠めにしようと企んだり、さらには邪魔者レピードとクラウディオを残虐な方法で殺そうとするなどの暴君ぶりを示しますが、夫の暴走ぶりに心を痛めるその妻メテッラの愛にほだされて心を改め、ついには権力を手放すことを誓うという物語です。なお、モーツァルトのオペラ『ルーチョ・シッラ』も同じ人物を扱っていますが、ストーリーは全く別物ですので、念のため。
 アリアや二重唱はいずれも登場人物の心象風景をよく歌い上げています。第1幕で、恋人チェーリアへの切実な愛を訴えるクラウディオのアリア「どうか聞いておくれ、麗しき恋人よ」や、第2幕でシッラに言い寄られたフラーヴィアがそれを突っぱねる「私の心は波間の岩のごとく」、第3幕で、暴君ではあっても愛しい夫であるシッラに呼びかけるメテッラが歌う「愛するあなたに求めるものは」など、音楽も詞も素晴らしいものです。
もちろん、他のアリアもヘンデルらしさが際立つ良い音楽ばかりです。
 録音は、現在のところ、上記に掲載したビオンディ指揮エウローパ・ガランテによるものと、ダーロウ指揮ロンドンヘンデルオーケストラによるものの2種類が入手可能なようです。
 ビオンディ盤のほうは、アリアの最後にリタルダンド?をつけるなど、全般的に劇的効果を狙った演奏、ダーロウ盤は、イギリス風の手堅くまとめた演奏と言えそうです。

« リュリ『ペルセ』1770年ヴェルサイユ版 | トップページ | モンテヴェルディ『ウリッセの帰還』 »

文化・芸術」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« リュリ『ペルセ』1770年ヴェルサイユ版 | トップページ | モンテヴェルディ『ウリッセの帰還』 »

フォト
無料ブログはココログ
2019年9月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30